目次
定義の確認
公式サイト上の文言
この記事では、4つの評価項目のうちの、「内容(Content)」系に分類される、もう1つの評価項目の「文章構文」の定義を、まず確認していきます。
文章構文は、発言を把握し、それを逐語的に発話する能力です。構文力や文章内における適切な単語、句、および節の使用の習熟度によりスコアが判定されます。
Sentence Mastery reflects the ability to understand, recall, and produce English phrases and clauses in complete sentences. Performance depends on accurate syntactic processing and appropriate usage of words, phrases, and clauses in meaningful sentence structures.
毎回、日本語訳のみならず、英語の原文を掲載するのは、日本語訳が緻密さを欠き、日本語を母語とする受験者をミスリードし兼ねないからです。例えば、英語原文には「recall(記憶する)」とありますが、訳文では「understand(理解する)」と合わせて「把握する」とまとめられてしまっています。
重要ポイント
この定義において重要であるのは、以下のポイントとなります。
①理解(第2言語習得モデルの「音声知覚」と「意味理解」を含む)
②①の内容の短期記憶保持のスキル
③第2言語モデルの「文章化(頭の中で話したい内容を文章にする)」に相当するプロセス
・当項目の評価に際しては、受験者の発話における以下の要素をもとに行う。
①語順の正しさ(accurate syntactic processing)
②語、句、節の正しい使用
「文章構文」と対応づけられるSection
「文章構文」の評価対象となるのはSectionB「復唱」、SectionD「文の構築」、SectionE「話の要約」の3つとなります。
なぜ、当該評価項目の対象はこれほど多岐に渡るのか?
「語彙」の定義は、比較的シンプルでしたが、この項目はリスニング全般、短期記憶保持、発話側の文章化と、非常に対象が多岐に渡ります。それぞれ、細かく分解して採点してくれれば、受験生にとっても弱点が明確になり有用性が増すのですが、なぜそうしてくれないのでしょうか?答えは簡単です。できないからです。
例としてSection2の「復唱」を考えてみましょう。英文が読まれた後、受験生が①全く発言できなかった場合、あるいは②発言したものの正解と大きく乖離している場合を考えてみましょう。両者の原因としては、①聞き取れなかった、②聞き取れたけど覚えられなかった、③聞き取れて覚えられたけど、語順に関する文法知識が乏しく、文章化の際に間違えてしまった、のいずれかの原因が考えられます。
しかし、システムが記録しているのは「正解と大きく乖離したアウトプット」のみであり、原因が3つのどの部分に起因しているのか、判別できません。そのために、この評価項目は、これほど多岐に渡らざるを得なかったと考えて、間違いはない、と私は考えています。
受験生が「正解と大きく乖離したアウトプット(語順のレベルで文章が間違っている)」を出したときに、この評価項目が減点されると考えてよいかと思われます。そして、ここの点数が伸び悩んでいる受験生は原因が3つの中のどこにあるのかを、自己分析により究明しなければなりません。
なぜ、定義上「Grammar」という言葉を使わず「Syntactic」という言葉を使用しているのか
「文章構文」の英文の定義を読んでいた際、なぜ「Grammar(文法)と言わず、Syntax(統語論・語順)というのか?」と言う点が気になっていました。英検1級の2次試験の評価項目には「Grammar and Vocabulary」というものがあります。そして、VERSANTのライティングには「Grammar」という評価項目が存在します。なぜ、VERSANTのスピーキングテストではSyntacticという言葉を使用しているのでしょうか?
GrammarとSyntaxの違い
そもそもGrammarとSyntaxの違いですが、こちらのはてな人力検索の結果が分かりやすかったので、それをもとに以下にまとめました。
①Morphology → 単語が文字ないし音韻でどう変化するか
②Syntax. → 単語をどう並べて文をつくるか
ここで、形態論が分かりにくいかもしれませんが、「語」より小さい単位の要素を「形態素(morpheme)」と呼びます。具体例としては「apples」の複数形を表す「s」はmorphemeです。また「takes」の3単現の「s」もmorphemeです。
【仮説】VERSANTは単語未満の単位のミスは「発音」で減点し、語順レベルのミスは「文章構文」で減点する
これまで見てきたところを総合すると、「文章構文」という評価項目の定義に「Syntax(語順)」という用語が使用され、「Grammar(文法)」という用語が使用されていないのは、全ての文法(Grammar)上のミスを「文章構文」に集約できないためであるからと考えられます。より具体的には、単語未満の「形態素(morpheme)」レベルのミスを、「文章構文」の減点とすることは、システム的に非常に難しいのではないかと考えられます。
例えば過去形で「ran」というべきときに「run」と言えば形態素レベルの文法ミスですが、これを文法上のミスなのか、発音上のミスなのかAI技術は峻別できるのでしょうか?カタカナ語で表記すればどちらも「ラン」になってしまいます。受験者が日本人の場合、文法上の知識が欠落しているのか、あるいは発音がおかしいのかを判断するのは容易ではありません。
同様に、複数形でも「women」と言うべきときに「woman」と言ったとして、音声データのみを手掛かりに文法上のエラーなのか、発音上のエラーなのか区別することは難しいでしょう。3単現の「s」での同様の問題が生じ得ます。
「文章構文」の定義に「文法(Grammar)」と記述してしまうと、形態素レベルのエラーも集約せねばならず、それは音声データのみからは判別が難しいため、「Syntactic」という用語を使用しているものと考えられます。
「文章構文」得点向上のための対応方針
定義で確認したように、この評価項目は様々な要素の集積であり、VERSANTでは要因分解ができないので、対策のためには、自身の課題はリスニングなのか、短期記憶保持なのか、あるいは発話のときの文法に問題があるのか、自己分析をするところから始まります。原因にヒットした対策を講じないと、得点力のアップは望めません。
また、評価対象となる3セクションのコツは皆異なるため、具体的な得点アップのための方向性は、ここでは留保し、各セクション毎の対策ページに譲りたいと思います。
Versantスピーキングテスト対策全般については、下記のまとめページをご覧下さい。