小泉進次郎環境相が2019年9月22日に開かれた、ニューヨークの国連本部内の気候変動問題に関連する会合に出席したことで、彼の英語力に注目が集まっています。彼の英語力の数値評価をシミュレーションしてみることで、VERSANTスピーキングテストの限界も見えてくると思われるので、当記事にて小泉氏の英語力を採点してみたいと思います。彼の英語力を測る上でのソースは以下の動画とさせていただきました。
目次
VERSANTスピーキングテストでは60点台前半から中盤あたりにのってくる
彼の英語を聞いての第一印象は、発音が悪くないということです。日本語を母語とする人だということは伝わってきますが、どこかで発音をしっかりと矯正されたな、ということがわかります。私がかつて一緒に仕事をした日本人のビジネスパーソンと比べても、これだけのレベルの発音の方には、あまりお目にかかったことがありません。コロンビア大学の大学院に2年間ほど留学されていたようですが、同様に2年間アメリカにMBA取得に行かれた方と比べても、発音はきれいだと思うので、恐らく渡米前にがっつりと発音矯正を受けた時期があるのではないかと、推測致します。
また「流暢さ」という観点から見ると、リズムが良いと思います。リズムだけでなく、同じくプロソディの構成要素である「抑揚」の使い方についても、素晴らしいと思います。(ただし、抑揚はVERSANTスピーキングテストの評価対象ではありません。)
この「発音」と「流暢さ」がしっかりとしているので、彼の英語のメッセージの訴求力は非常に高いと思います。彼が伝えたかったことは、聴衆にしっかりと伝わっていると思われます。一方で、その伝えるメッセージの「中身」についてはどうかなと思われますが、VERSANTスピーキングテストの評価対象外ですので、ここでは取り敢えず保留しておきます。
英検1級の2次面接も合格レベルにのってくる
もし小泉氏が英検1級を受験したならば、2次面接で不合格の判定が出ることは、まずないと思われます。ただし、筆記の1次試験をクリアするか否かについては、憶測にすぎませんが、難しいような気が致します。以下英検1級の4つの評価項目に従い、彼の英語力を分析してみたいと思います。
SHORT SPEECH
この項目の評価のポイントは「与えられたトピックの中から1つを選び、論点とその根拠をまとめ、首尾一貫したスピーチを組み立てることが求められます」となっています。また、英検1級の2次面接では、ネイティブと日本人の2人の採点者が採点を行い、両者各5点合計10点満点で評価されます。動画内の前半のスピーチを聴くと、あのレベルで来られると通常の評価者であれば5点をつけると思いますし、厳しめの評価者でも4点より低くはつけないと思われるので、合計8〜10点になると思われます。私自身の受験時はこの項目の点が9点だったのですが、スピーチだけに限定すれば、さすが政治家という感じで、正直私自身も彼に学ぶべき点は多くあると思います。
INTERACTION
この項目の評価ポイントは「面接委員とのやりとりの中で、それぞれの質問に対して臨機応変に応答し、会話を継続することが求められます。」となっています。どうでしょう?後半FTの記者から「What will your ministry be doing in the next 6 to 12 months to transition away from coal?」と問われて、「Reduce it.」って全然答えになっていないですよね。このあと「How?」と尋ねられても、どのようにして削減するかということには一切触れず、「環境省だけでなく政府も削減すると言っている」ってお粗末すぎますよね。ただし、環境相として下手なこと言えないという立場も考えると、その点もやや斟酌すべきと思われるので、純粋な英語力だけでこの項目を評価すると、個々の評価者は「3」にするか「4」にするかの二択と思われ、合計「6」から「8」に落ち着くのではないかと思われます。
海外の新聞記者は就任後10日とか、そんなことお構いなく、一人前の「環境相」として質問をしてくるので、このようなレベルの回答しかできないのであれば、カッコつけずに通訳を介した方が、回答を考える時間稼ぎもできるので、よいのではないかと思います。
GRAMMAR AND VOCABULARY
PRONUNCIATION
上記2項目については、全くミスなしという訳ではないので、評価者は「4」点から考えると思います。発音については、ネイティブレベルではないけど、明らかに平均的な日本人よりは上なので、合計「8」が妥当と思われます。文法とボキャブラリーについては、厳しい評価者だと「3」がつき、合計としては「6」から「8」に落ち着くと思われます。
肝心の話の「中身」は?
世界中が注目している会議であったのに・・・
私は英語力向上のためにPodcastを聞いていますが、例えばBBCの「Business Daily」というPodcastは、一週間丸々テーマが気候変動になってしまいました。また、気候変動にはあまり関心がなさそうな印象を受けるGoldman Sachsが提供する「Exchanges at Goldman Sachs」というウィークリーのPodcastですらも、1週分を「How Can Cities Adapt To Climate Change」というトピックにしていますので、今回の気候変動をテーマとした国連の会合は、いわば世界中が注目していたという訳です。そんな世界の注目を集めながらも、「Cool」だとか「Sexy」だとか「Younger generation」だとか、そういった精神論に近い持ち玉だけで、国連に乗り込む小泉進次郎という人は、ワイドショーのコメンテーターが言う通り、ものすごい鈍感力だなーと思います。もちろん今回は鈍感力を悪い意味で指摘しており、私はあのレベルの発言をする環境相を持った国の住人であることがなんだか恥ずかしいような気すらしますが、鈍感力というのは長い目で見るとプラスに作用することも大いにあるため、彼の今後に期待したいところです。
16歳の少女がすごすぎて、比べてしまうと情けない
また、今回話題をかっさらった16歳のスウェーデン人少女のグレタ・トゥーンベリさんが凄すぎて、彼女と比べてしまうと、「日本の環境相本当にお粗末」という感じになってしまいます。日本の報道で出た映像だけ見ていたときは、泣きながらスピーチする彼女のことが、なんだか芝居じみていて、最初は良い印象を受けませんでした。しかしBBCのBusiness DailyのPodcastでも彼女にインタビューをしていて、しかも、結構意地悪な質問を浴びせかけていて、例えば彼女は二酸化炭素を撒き散らす飛行機が嫌で船でNYに来たそうなのですが、「少数の人がそんなことして意味あるのか?』みたいな意地悪な質問にも、堂々と自分の考えを6秒間も沈黙することもなく、母語ではない英語で受け答えしており、彼女には本当に脱帽という印象を受けました。
小泉進次郎氏はあの短い動画の中で「自分は環境相就任後まだ10日しかたっていない」ということを二度も言い、「だから厳しい追及は勘弁ね」という姿勢が見え見えで嫌なのですが、彼が今までに精力的に取り組んで来たことは「復興」のはずであり、であれば、福島に寄り添う中で、当然エネルギー政策にも思いを馳せることがあったはずにも関わらず、「全世代で取り組むための架け橋」となるだとか「セクシーに」とかの精神論しか出てこなかったのは、本当に残念です。
英語の中身が伴わないのは、英語外の問題
私の結論としては、「小泉進次郎氏の英語力はかなり高いが、中身が伴っていない」というものです。中身が伴わない理由の1つに、就任後10日という事情も斟酌してあげるべきかもしれません。しかし、ワイドショーなどでも指摘されているように、今まで彼の話に中身が伴っていたことがあるか、あるいは別の言い方をすれば「具体策」を語ったことがあるか、と問うとてみると、今後も能天気な精神論に終始する可能性があります。
彼の英語(あるいは日本語も含めて)に中身が伴わないのは、英語力の外に理由があると思われます。コンピテンシーという点から鑑みるに、思考系のコンピテンシー、たとえば「問題解決力」や「実行計画策定力」が鍛えられていないと考えられますし、実際にそういうコンピテンシーに紐づけられる彼の言動を私は見たことがありません。一方で、対人系のコンピテンシーは「口頭表現力」だとか、「ネットワーク構築力」だとかに紐づけられる言動が、あの数分の動画からも高いことが見受けられます。
彼は「自分の言葉で語る」ことにこだわったがために、中身のないスピーチになってしまったように見えますが、思考系のコンピテンシーが弱いのであれば、役人からレクチャーを受けて発信すればいいと思います。
VERSANTのみで英語発信力を評価する危険性
さて、貴方の会社が海外派遣の社員の人選にあたり、「英語発信力はやっぱりVERSANTだろう」ということで、VERSANTの得点の高低のみで人選をしてしまうと、確かに英語は上手だけど、話す中身を伴わない人を選抜してしまう危険性がある、ということを肝に命じておくべきでしょう。実際に、日本語で実施するコンピテンシーアセスメントを、海外派遣の人選に使用している企業もあり、そういう企業はよく分かっているな、という印象を受けます。(ただし、コンピテンシーアセスメントのコストはべらぼうに高いです。)
最後にお口直しに河野太郎さんの英語インタビューの動画を。こちらは本当に素晴らしいです!