目次
コンピテンシー面接とは何か
コンピテンシー面接は、採用面接時などに候補者のコンピテンシーを数値評価することを目的として行われるものです。面接官の質問に従い、候補者が今までの職業人生の中で実際にとった「特定」の「過去」の「行動」について語り、その「行動」の記録を面接官が分析により、最終的に数値評価がなされます。
なぜ「過去」の行動に焦点を当てるのか?
なぜ、「過去」の行動なのかと言えば、それこそが客観的な事実だからです。そしてコンピテンシー面接は、「過去の行動は将来もまた繰り返される」という前提に立脚しているので、過去とった行動の詳細をヒアリングすることが、採用後に発揮されるコンピテンシーを予測する上で有効であると考えています。さらに付言すると、同じ過去でも、より近い過去の行動事実の方が再現性があると考えられているので、キャリアが長い方はなるべく直近のキャリアから、自身の行動をアピールした方がよいでしょう。
なぜ「特定」の行動なのか?
コンピテンシー面接では、過去の行動をベースにしていても、それを一般化した答を述べることは好まれません。なぜならば「一般化」された回答は、どうしても事実から乖離してしまうからです。
例えば、「今までに一番対応が難しいと感じたお客様に、具体的にどのような対応をしたか教えて下さい」という質問に対して「私は様々なタイプの難しいお客様の対応を任されてきましたが、常にお客様の真のニーズは何であるかを考えて行動し、結果としてお客様の期待を上回るサービスを提供し続けてきました」と回答すると、行動の具体性が失われ、客観的な事実ではなくなってしまいます。面接官としては「『一番』対応が難しい」と限定することで、特定の顧客にフォーカスすることにより、「常にお客様の真のニーズはなんであるかを考えて行動し」という部分の具体的な特定の行動を聞きたい訳なのです。したがって、事実が不明瞭な場合は、面接官は「特定」の話題にフォーカスするよう、更なる質問を投げかけることで、誘導してくるでしょう。
「自分が話すことが全て」をどう捉えるか
さて、自分がとった過去の行動について、最も熟知する立場にあるのは、自分自身です。ですから、面接において自分が話す内容が全てと言っても過言ではなく、それをどう受け止めるかは個々人次第ですが、関連していくつか述べておきたいと思います。
嘘はバレると覚悟しておいた方がよい
自分が過去の職場でとった細かい行動など、確かめようがないのだから、架空の事実を並べてアピールすればよい、と考えている方がいらっしゃれば、以下に述べる事実に留意して下さい。
コンピテンシー面接の現場で活躍していらっしゃる方々により執筆された日本語サイトを見ると、コンピテンシー面接に関するメリットとして「嘘を見抜ける」と書いてあるサイトが非常に多いことに気がつきます。回答の中で矛盾している点、あるいは明確に語ることを避けている点等に面接官が気付くと、そこを明らかにする質問を集中砲火させることで、経験を積んだ面接官であれば、容易く嘘を暴くことが可能です。
英語で説明するのはなかなか大変
英語教育において、自分自身について語ることは比較的難易度が低いと考えられており、従って英会話スクールに行くと、まず自己紹介から始めさせられるのはそのためです。コンピテンシー面接も同様に、自分のことを語るものではありますが、自己紹介の延長線上で考えていると、面接本番でパニックに陥ること必至です。だらだらと語ることは印象の低下につながります。このすぐ後で説明するSTARモデルに即して自分のコンピテンシーについて英語でアピールするというのは、なかなか至難の業といえます。
しかし、とはいえ、話す内容は自分のことに限定されているのですから、しっかりと準備して、練習すれば十分対応可能です。ただ、あくまでもおおよその目安にすぎませんが、現在のTOEICの点が700点に達していないという方は、まずは英語面接だけに特化して準備するのではなく、全体的な英語力底上げを目指すことが優先事項であると思われます。
コンピテンシー面接を支えるSTARモデル
コンピテンシー面接は候補者の「行動」に焦点を当てた手法であることは既にご理解いただけたと思います。しかし、純粋に「行動(Action)」だけを抽出しようとすると、コンピテンシーの数値評価に際して、困った事態が生じてきます。まず、行動だけでは数値評価のためのレベル感が把握できないので、その行動がとられた「状況(Situation)」を明確化する必要があります。また、日本人はプロジェクトベースの経験を語る場合、とかく主語を「我々」で語りがちなので、候補者自身に与えられた「タスク(Task)」や役割が何であったのかが不明瞭になりがちです。更に、確かにコンピテンシーに即した行動はとったものの、どのような「結果(Result)」が獲得できたのか次第で、評価は異なってきます。
このため、コンピテンシー面接では、上記の4要素を明かにすることが面接官のゴールとなり、4要素の頭文字をとってSTARモデルと呼ばれます。以下に各要素につき、概要を見ておくことと致しましょう。
状況(Situation)
過去になにがしかの「行動」をとった被評価者を取り巻く「状況」を意味します。「状況」を考慮に入れなければ、「行動」が妥当なものであるか評価できません。例えば、「部下の育成のために難易度の高いタスクを与えた」、という行動は一見妥当に見えますが、その部下が実はメンタル面でSOSを出していた場合、評価は変わってくるのではないのでしょうか?
また、「状況」を考慮に入れないと、「結果」のレベル感が分かりません。ITのPM(プロジェクトマネージャー)として、スケジュール通りにプロジェクトを完了させたといっても、プロジェクトの規模(予算額)や構成員(マルチベンダーか否か、オフショアを含むのか等々、具体的な人数)が分からないと、数値評価においてどのレベルに着地させてよいのか判断がつきません。
コンピテンシー面接での発言は客観性を求められますので、数値化できるものは可能な限り数値を示して発言することが好ましいといえます。状況に該当する項目としては、プロジェクトの「人数」や「期間」であったり、「予算額」等が該当します。自分が経験したこととはいえ、これらの数値を正確に覚えておくことは余計な負荷となるため、コンピテンシー面接で語ることを予定しているプロジェクトについては、レジュメ上にこれらの事項をあらかじめ明記しておくことをお勧め致します。
課題・役割(Task)
Tは被評価者に課された「課題・役割」です。コンピテンシー面接では、プロジェクトでの経験談を話していると、被評価者の主語がいつのまにか「私は」ではなく「我々は」になっていることがしばしば見受けられます。採用面接での関心事は、あるプロジェクトの成功事例等ではなく、被評価者本人がとった行動を聴取することです。そのためには、被評価者に与えられた課題や、プロジェクトの中での役割を今一度明確化することで、集団ではなく個人がとった行動、及び個人が獲得した成果に話の焦点を当てることが可能となります。
行動(Action)
Aは「行動」に該当します。各コンピテンシーと直接的に対応するのは、この「行動」になります。コンピテンシー面接では過去の具体的な行動を説明する訳ですから、英語で話すときは常に過去形を使用するということに気をつけて下さい。
結果(Result)
Rは「結果」です。組織人としては、やみくもに行動したころで意味はなく、「行動」の帰結として何らかの「結果・パフォーマンス」を示さねばなりません。そして、コンピテンシー面接は自身をアピールする場なので、なるべく成功体験をアピールするようにしましょう。失敗の体験談を求められることもありますが、その場合はその後どう軌道修正したか、何を学んだか等を述べるようにしましょう。また、コンピテンシー面接は客観性を重んじますので、可能な限り結果は数値化して述べるようにしましょう。ですから、売上等の数値が結果であるならば、これも予めレジュメ上で明記しておくことをお勧め致します。
その経験を通して、何を学んだのか?
最後のポイントはSTARモデルの構成要素ではありませんが、面接官から「その経験を通じて、何を学びましたか?」と問われることは、よくあります。羽生結弦があれほどの伝説的な結果をフィギュアスケート史上に残しながらも、試合後のインタビューはいつも反省点で溢れている点を見ると、我々はその向上心と謙虚さに感銘を受けます。ですから、面接の候補者としても、自身の結果をアピールすることは大切ですが、その経験を通じて学んだこと、更に向上させるべきコンピテンシーのポイント等を併せて述べることで、「自己成長への意欲」という別のコンピテンシーをアピールすることが可能となります。そして、面接官もやはり人間で、必ずしも客観に徹して評価することは難しく、自信の中に謙虚さが垣間見える「なんかいい人だな」というほんわかとした印象を植え付けることが可能となります。
下の動画ではSTARモデルに即したコンピテンシー面接の回答例がいくつかありますので、具体的なイメージが湧かないという方は参考にしてみて下さい。
転職時の英語面接対策全般については下記の記事をご参照下さい。